行天宮

行天宮(ぎょうてんきゅう)、またの名を恩主公廟(おんしゅこうびょう)は、台湾台北市中山区に位置し、「台北関帝廟」とも呼ばれています(この名称は廟内の籤詩にも見られます)。主神は関聖帝君(俗称:恩主公)であり、配祀されている随神には、関平太子(関聖太子平)、周倉将軍(周恩師倉)、呂恩主洞賓、張恩主単、王恩主善、岳恩主飛などがいます。これらの神々は総称して「五聖恩主」と呼ばれています。この廟は台湾でも有名な関帝廟の一つであり、炭鉱業で成功した道士・黄玄空によって建立されました。
行天宮にはさらに二つの分宮があり、それぞれ台北市北投区忠義山と新北市三峡区白鶏山に位置しています。これらは総称して「行天三宮」と呼ばれます。北投分宮が最も早く建てられ、次に三峡の行修宮、そして市内中心部にある本宮が三つの中で最後に完成しました。廟門には108個の門釘が打たれており、道教における36天罡星と72地煞星、計108柱の神々を象徴しています。
宗教的な性格として、行天宮は儒教・仏教・道教の三教合一の正信道場であり、「問心敬神(心に問うて神を敬う)」という信仰理念を強調しています。宗教儀式は道教の科儀が中心で、祈安大法会(俗に言う「拜斗」)、祭元辰、祭関限、祭星、掩魂、収契孫、収驚など、いずれも道教儀礼と深く関わっています。
「恩主」とは、鸞堂信仰においては「救世主」を意味し、恩主公は衆生を憐れみ、広く人々を済度する神として信仰されています。信者たちは感謝と敬意を込めて「恩主公」と呼び、行天宮もそのため「恩主公廟」として親しまれています。
以下は、行天宮の五聖恩主(神像の座向に基づく配列)です:
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関聖太子(関平):関聖帝君の子で、忠義に厚く、父を助けて事業を成し遂げた。
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隆恩真君(王恩主):道教の護法神の一柱で、別名「豁落靈官」。火と威霊を司り、高位の神とされる。
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孚佑帝君(呂恩主):呂洞賓のことで、中国八仙の一人。道教では孚佑帝君として尊崇され、また文昌五神の一柱でもある。
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関聖帝君(関恩主):三国時代の名将・関羽。字は雲長。儒仏道三教に共に尊ばれる存在。仏教では伽藍菩薩、道教では協天大帝・翊漢大天尊、儒教では文衡聖帝と称される。また「山西夫子」とも呼ばれ、鸞堂では恩主公、一貫道では関法律主として信仰される。明の万暦年間には「三界伏魔大帝神威遠鎮天尊関聖帝君」として封じられた。
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司命真君(張恩主):灶神(かまどの神)として知られ、人間界の善悪を記録し、天界に報告する役割を担う。家庭の平安を守る神。
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精忠武穆王(岳恩主):南宋の名将・岳飛。忠誠・孝行・節義の象徴として深く敬愛されている。
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周恩師(周倉):関聖帝君の部将で、忠義と勇敢さを備えた存在。関帝の左右手とされる。
行天宮は、宗教信仰の中心であると同時に、文化・歴史・精神信念が融合した重要なランドマークでもあります。