岩手県は日本の東北地方北部、本州の北東隅に位置し、県庁所在地は盛岡市です。北は青森県、西は秋田県、南は宮城県に接し、東は広大な太平洋に面しています。総面積は約15,275平方キロメートルで北海道に次ぐ日本第2位の広さを誇ります。広大である一方、人口は約113万人と少なく、分布は不均等で、8割以上が内陸の北上盆地に集中し、沿岸部は平地が限られるため小さな都市や町が点在します。県域の大半は山地・丘陵で、西に奥羽山脈、東に北上高地が天然の屏障をなし、中央に肥沃な北上川流域が広がります。
「岩手」という名称には伝承が伴います。古く、住民が悪鬼退散を祈ると三石神社の巨岩が「三石様」となって悪鬼を押さえつけ、二度と災いしないと誓って手形を残したことから、この地は「岩に手」で「岩手」と呼ばれるようになったとされます。文献上の初出は『大和物語』中の逸話で、鷹の名として「岩手」が用いられた例が知られます。のちに行政区画の成立とともに、明治4年に岩手県が設置され、現在の名称が正式に継承されました。
気候は内陸が典型的な大陸性で、年較差・日較差が大きいのが特徴です。盛岡、花巻、北上などの盆地都市は冬季厳寒で、-10℃前後まで冷え込む日が多く、藪川は「本州最寒地」として知られ、-30℃を記録したこともあります。一方、夏はフェーンの影響で北上盆地の高温が仙台を上回ることもしばしば。沿岸部は海洋の調整を受け、夏は涼しく冬の降雪は比較的少なめですが、内陸の西和賀町や八幡平市などは豪雪地帯で、ウィンタースポーツに適しています。
自然景観と歴史遺産も豊かです。三陸海岸の浄土ヶ浜は白い奇岩と碧い海が織りなす浄土のような風景で名高く、北山崎の断崖は観光船や写真愛好家に人気です。地下に目を向ければ龍泉洞や安家洞が鍾乳石と透明な地底湖で神秘の世界を見せます。内陸では八幡平国立公園の高原と温泉群が四季折々に表情を変え、秋の紅葉は圧巻。早池峰山は日本百名山の一つで、希少な高山植物群落が特別天然記念物に指定されています。
歴史文化では、12世紀に奥州藤原氏の政治・文化の中心だった平泉が挙げられます。中尊寺・毛越寺などの伽藍や庭園は「仏国土=浄土」を表現し、平泉の文化遺産は2011年に世界文化遺産に登録されました。中尊寺金色堂は今も金箔輝く威容を保ち、静謐な空気に包まれています。
産業・近代遺産では、釜石の橋野高炉跡が「明治日本の産業革命遺産」の一部として、日本の近代製鉄の黎明を物語ります。沿岸部は2011年の東日本大震災で大きな被害を受けましたが、復興により力強さを取り戻し、高田松原などは防災教育の拠点であると同時に「記憶と希望」の観光地となっています。
作家・宮沢賢治ゆかりの文化風土も広く知られ、彼が理想郷として描いた「イーハトーブ」は岩手の精神風景の象徴です。花巻市では宮沢賢治記念館を訪ね、自然と宇宙へのロマンに触れられます。
観光体験としては、盛岡市の石川啄木旧居や小岩井農場に文学と産業の足跡が残り、一関市の猊鼻渓・厳美渓は舟下りや散策で渓谷美を満喫できます。花巻温泉や繋温泉などの湯処は癒やしを提供し、遠野市は河童伝説や柳田國男『遠野物語』で知られる民俗学の聖地です。
食文化は素朴で豪快。盛岡三大麺――冷麺・じゃじゃ麺・わんこそば――が名高く、特に「わんこそば」は小椀で次々供される独特のスタイルで旅人の挑戦心をくすぐります。三陸沿岸は鮭、ウニ、アワビ、カキなど海の幸が豊富。内陸では前沢牛や短角牛といった和牛が全国的な評価を受けています。
交通面では、東北新幹線で盛岡—東京間は約2時間強。県内は花巻空港が国内線を結び、三陸沿岸道路や東北自動車道が南北を貫いており、広大な県土でもアクセス性は着実に向上しています。